Author: Giorgio A. Iotti、Jean-Pierre Revelly
Date of first publication: 30.08.2023
ある最近の論文において、メカニカルパワー(MP)を用いた人工呼吸器誘発肺傷害(VILI)リスクの実用的評価に関するいくつかの重要な興味深い所見が発表されました。
John Mariniと共著者らによる、MPとVILIの関係の概念モデルを扱った論文(
前回のニュースレターで説明したように、MPは、各拡張に関連するエネルギー×1分間の呼吸回数に相当します。そして、1回の呼吸に対応する総エネルギーは、抵抗エネルギーと弾性エネルギーに分けられます。ここで著者らは、弾性エネルギーだけが、動的条件下の肺を傷害する可能性を持つ伸張および歪みと強い相関関係を持つことを踏まえ、抵抗エネルギーを除外して弾性エネルギーに的を絞っています。弾性エネルギーのみに注目すると、VILIリスクの評価におけるMPの使用が大幅に簡単になります。その理由は、(総MPとは対照的に)弾性MPは換気モード(ボリュームコントロールまたはプレッシャーコントロール)にほとんど左右されず、受動的換気中に単純な測定値から計算できるためです。抵抗エネルギーを無視することは、総MPの評価方法に関する科学的議論に終止符を打つ可能性もあります(
次に、2種類の異なる弾性エネルギーが検討されています(図1を参照)。「ドライビングエネルギー」は、一回換気量(VT)を生成するためにPEEPに加えて適用されるドライビングプレッシャー(DP)に関連し、「総弾性エネルギー」は、VTを生成するために適用される大気圧を超えるゲージ圧力(すなわち、プラトー圧:Pplat = DP + PEEP)に関連します。これら両方のタイプの弾性エネルギーを考慮に入れると、PEEPをMPの計算に算入すべきかどうかについての科学的議論が収まります(
最後に、Mariniは、DPとPplatの両方について、肺の機械的傷害の閾値圧力(Pt)を検討することを提言しています。下の図2は、Ptより低い弾性圧力で換気が管理されているケースを表します。この場合、VILIの理論上のリスクはゼロです。このケースでは、呼吸回数が多くても(かなり大きなドライビングMPと総弾性MPを伴うものの)VILIのリスクは上昇しません。図3では、吸気ピーク時の弾性圧力がPtをわずかに超えています。したがって、これに伴うVILIの軽度のリスクが、呼吸回数の増加によって増幅されます。図4の例では、結果は他のケースよりはるかに悪く、呼吸回数の増加はVILIのリスクに大きく寄与します。
PEEPレベルは呼吸あたりの総弾性エネルギーに(したがって総弾性MPにも)直接影響しますが、PEEPの選択は通常、結果的なMP以外の基準(ガス交換や血行動態など)に基づきます。その一方で、PEEPに加えて生成される呼吸は、Ptを超えないように設定する必要があります。Ptについては、現在肺保護のために推奨されている2つの数値、すなわち最大DP = 15 cmH2Oと最大Pplat = 30 cmH2Oを組み合わせることで、大まかに選択できます。
両方の基準を満たすため、たとえばPEEPが12 cmH2Oの場合、Pplatは12 + 15 = 27 cmH2Oを超えないようにします。PEEPが15の場合、最大Pplatは15 + 15 = 30 cmH2Oにします。PEEPが18の場合は、最大Pplatが30 cmH2Oを超えないようにするため、DPは30 – 18 = 12 cmH2Oより小さくします。これらの条件の下では、理論上、呼吸回数は動脈PCO2とpHを制御するために必要な任意の回数まで増やすことができます。これにより、肺傷害のリスクが増加することはありません。
ただし、何らかの理由でPtを超える弾性圧力で換気せざるを得ない場合、肺傷害を最小限に抑えながらCO2除去効率を最大限に高める換気パターンを見つけることは容易ではありません。原理的には、ASVまたはINTELLiVENT-ASVによる呼吸回数とVTの自動選択は、この目的に役立つ可能性があります。ただし、総弾性MPとドライビングMPの計算によって、実施中の換気に伴うリスクを評価できる必要があります。
著者らは、提示したモデルの実際的な制限もないがしろにしていません。最大DP = 15 cmH2Oと最大Pplat = 30 cmH2Oに基づくPtの使用は、一般的なアプローチにすぎません。患者によっては、あるいは呼吸器系の肺領域が異なる場合には、一般的なアプローチとは異なるPtを使用する方がより適切な場合があります。特に、(硬直した胸や重い胸の症例で見られるように)胸腔内圧が高い場合は、肺に対する保護効果があるため、通常より高いPtが許容されます。さらに、重力による胸腔内圧勾配も考慮に入れる必要があります。つまり、背臥位においては、Ptは上側肺領域では低くなりますが、高い胸腔内圧によって保護されている下側領域では高くなります。重力がPtに及ぼす効果は、腹臥位ではそれほど顕著ではありません。
人工呼吸と呼吸メカニクスの理解を深めるために継続的に貢献し、自身の優れた洞察を集中治療コミュニティに提供し続けるJohn Marini氏に心から感謝いたします。