リクルータビリティを評価するためのベッドサイドツール

• 肺のさらなる損傷を避けながら十分な酸素化とCO2除去を確保することは、ARDS患者の治療における大きな課題のひとつです。
• 適用するPEEPの適切なレベルは肺リクルートメントの可能性によって異なるため、リクルータビリティの程度を評価することはPEEP設定を決定するための指針となります。
• リクルートメント対拡張比は、呼吸メカニクスの測定に基づいてリクルータビリティを測定する2つのベッドサイド法のうちの1つであり、人工呼吸器のモニタリングパラメータから計算できます。
• R/I比が低いほどリクルートメントの可能性は低くなります。

これら2つのボールをうまく扱うことが、ARDS患者の治療における大きな課題のひとつです。急性肺疾患では、肺胞は模式的に3つのグループに分けられます。それは、低い圧力でも開いた状態を維持できる安定した肺胞（正常な肺と同様）、虚脱しているが適度に安全な陽圧によって再び開くことができ、開いた状態を維持できる肺胞（リクルート可能な肺）、虚脱または硬化していて再び開くことができない肺胞（リクルート不可能な肺）です。これらのグループの相対的な割合に応じて、肺は機械的にほぼ正常、リクルート可能、またはリクルート不可能に分類できます。リクルート可能な肺の場合、適切なレベルの呼気終末陽圧（PEEP）でリクルートすることを目指して換気を行うと、肺の保護につながると考えられています。一方で、PEEPは吸気圧を押し上げるため、虚脱した肺胞のリクルートメントが促進され、肺が一回換気量を安全に受け入やすくなります。他方で、適切なレベルのPEEPは機械的安定剤として働き、呼気中の周期的な肺胞のデリクルートメントとその結果生じる無気肺に抵抗します。リクルート不可能な肺または機械的にほぼ正常な肺の場合は、状況が異なります。高いPEEPレベルは過剰であり、効果的でもありません。

ARDS患者でPEEPを設定する最も簡単な方法は、設定値を上げながら酸素化が十分に改善する値を探ることですが、この方法は「レスポンダー」にのみ有効であり、特にPEEPに良好に反応しない患者では過膨張につながる場合があります。リクルータビリティの測定は、適切なPEEPを見つけるための重要な追加情報をもたらす可能性があります。

しかし、リクルータビリティとはどのようなものでしょうか。肺胞の不安定性と、陽圧に反応する能力は、リクルータビリティの前提条件です。リクルートメントの可能性を持つ肺は、明らかにデリクルートメントの可能性も持ちます。つまり、気道内圧が特定のクロージングプレッシャー以下に下がると、不安定な肺胞が再び虚脱する可能性があります。 

ベッドサイドでリクルータビリティを評価する方法は、肺超音波検査や電気インピーダンス断層撮影による画像診断から、特定の手技中に実施される呼吸メカニクスの測定に基づくアプローチ（呼吸器系の静的気道内圧/ボリューム（PV）ループの分析とリクルートメント対拡張比（R/I））まで、多岐にわたります。どちらの方法にも侵襲的換気が必要であり、患者が完全にリラックスした状態にある必要があります。

1つ目の方法の静的PVループとは、人工呼吸器に搭載された特殊なツールを使用して、ゆっくりとした制御された拡張および収縮手技中のボリュームの変化を気道内圧に対して記録するものです。一般的な手技では、2 cmH2O/sのゆっくりとした一定の速度で圧力を5 cmH2Oから40 cmH2Oまで上昇および下降させたときの呼吸器系を調べます。このやり方の代わりによく使われるのは、ゼロから開始してゼロで終了する方法です。実際には、これらのゆっくりとした手技によって一度に2つのことを調べることができます。それは、圧力レベルのゆっくりとした上昇によって肺胞が再開通（リクルートメント）する可能性と、圧力レベルのゆっくりとした下降に伴って肺胞が再虚脱（デリクルートメント）する可能性です。気道内圧をX軸、ボリュームをY軸とした手技プロットでは通常、吸気カーブと呼気カーブの間にヒステリシスがあります。これは呼気カーブが吸気カーブより高くなることを意味します。2つのカーブが離れるほど、ヒステリシスの度合いは高くなります。興味深いことに、ヒステリシスが大きい（ループが太い）ほどリクルートメントの可能性は高く、ヒステリシスが小さい（ループが細い）ほどリクルートメントの可能性は低いことがわかっています（Demory D, Arnal JM, Wysocki M, et al.Recruitability of the lung estimated by the pressure volume curve hysteresis in ARDS patients.Intensive Care Med.2008;34(11):2019-2025. doi:10.1007/s00134-008-1167-81​, Chiumello D, Arnal JM, Umbrello M, et al.Hysteresis and Lung Recruitment in Acute Respiratory Distress Syndrome Patients: A CT Scan Study [published correction appears in Crit Care Med.2022 Mar 1;50(3):e339].Crit Care Med. 2020;48(10):1494-1502. doi:10.1097/CCM.00000000000045182）。ヒステリシスの度合いは、正規化最大距離（NMD）、つまり2本のカーブの最大距離と手技の最大ボリュームとの比率として表すことができます。NMDの値が0.41の場合、リクルータビリティは中程度であり、リクルートメントの可能性が高いか低いかを区別するのに役立ちます（Chiumello D, Arnal JM, Umbrello M, et al. Hysteresis and Lung Recruitment in Acute Respiratory Distress Syndrome Patients: A CT Scan Study [published correction appears in Crit Care Med.2022 Mar 1;50(3):e339].Crit Care Med.2020;48(10):1494-1502. doi:10.1097/CCM.00000000000045182）。

2つ目の方法のリクルートメント対拡張比（R/I）は「簡易デリクルートメント法」とも呼ばれ、Chenらによって提唱されました(Chen L, Del Sorbo L, Grieco DL, et al.Potential for Lung Recruitment Estimated by the Recruitment-to-Inflation Ratio in Acute Respiratory Distress Syndrome.A Clinical Trial.Am J Respir Crit Care Med.2020;201(2):178-187. doi:10.1164/rccm.201902-0334OC3​, Chen L, Chen GQ, Shore K, et al.Implementing a bedside assessment of respiratory mechanics in patients with acute respiratory distress syndrome.Crit Care.2017;21(1):84.Published 2017 Apr 4. doi:10.1186/s13054-017-1671-84​).この方法では、従来のボリュームコントロール換気（CMV）中に、少なくとも30分間高レベル（15～18 cmH2O）に維持していたPEEPを突然10 cmH2O下げて低レベル（5～8 cmH2O）にしたときにデリクルートメントが発生する可能性を調べます。高レベルのPEEPで吸気が始まり低レベルのPEEPで呼気が終わる遷移呼吸では、以前の呼吸と比較して呼気量が多くなります。この追加分の呼気量は、2つのまったく異なる要素で構成されます。1つ目の要素（「収縮量」と呼びます）は、低いPEEPレベルで安定した状態を保っている肺胞の収縮反応に左右されます。収縮量は、圧力の変化がベイビーラングの拡張（I）と収縮に及ぼす影響を探るもので、ベイビーラングのサイズに関係しています。2つ目の要素（「デリクルートメント量」と呼びます）は、PEEPが低レベルに切り替わるとすぐに虚脱して内部のガスを完全に放出する不安定な肺胞のデリクルートメントに左右されます。デリクルートメント量は、圧力の変化がリクルートメント（R）とデリクルートメントに及ぼす影響を探ります。R/I指数は、デリクルートメント量を収縮量で割った値に相当します。実際には、この指数は観察されたデリクルートメントをベイビーラングのサイズで正規化します。したがってこれは、リクルータビリティの程度を表します。 

R/I比の計算は比較的簡単で、人工呼吸器のモニタリングシステムで読み取り可能なデータ、つまり高レベルのPEEP時の呼気量、PEEP遷移呼吸中の呼気量、および低レベルのPEEP時の呼吸器系コンプライアンスに基づいています。R/I比が低いほどリクルートメントの可能性は低くなり、ゼロはリクルートメントの可能性がないことを示します。中間値は約0.5（Chenらが研究した集団の中央値）で、0.6を超えるとリクルータビリティが高いとみなされます（Chen L, Del Sorbo L, Grieco DL, et al.Potential for Lung Recruitment Estimated by the Recruitment-to-Inflation Ratio in Acute Respiratory Distress Syndrome.A Clinical Trial.Am J Respir Crit Care Med.2020;201(2):178-187. doi:10.1164/rccm.201902-0334OC3​).これらのR/I比を使用した結果が静的PVループのヒステリシスと比較され、良好な一致が認められました（Nakayama R, Bunya N, Katayama S, et al.Correlation between the hysteresis of the pressure-volume curve and the recruitment-to-inflation ratio in patients with coronavirus disease 2019.Ann Intensive Care.2022;12(1):106.Published 2022 Nov 12. doi:10.1186/s13613-022-01081-x5​). 

単一の静的PVループのヒステリシスまたは10 cmH2Oのデリクルートメント手技でのR/I比によってリクルータビリティが高い、中程度、低いのいずれであるかを判定した後、臨床実践においてPEEPをどのように設定すればよいのでしょうか。リクルータビリティが低い場合は通常、低いPEEPを選択するのが適切です。リクルータビリティが高い場合は一般に高いPEEPを適用するのがよいと考えられていますが、この概念について最近提起された注意事項に留意することが重要です（Gattinoni L, Collino F, Camporota L. Assessing lung recruitability: does it help with PEEP settings?.Intensive Care Med.2024;50(5):749-751. doi:10.1007/s00134-024-07351-56）。では、リクルータビリティが中程度の場合はどうでしょうか。興味深いことに、不安定な肺胞をリクルートして機械的に安定させるのに最適なPEEPレベルを正確に評価する方法として、デクリメントPEEPトライアル中に複数の静的PVループのヒステリシス評価を行うことが提案されています（Mojoli F, Pozzi M, Arisi E. Setting positive end-expiratory pressure: using the pressure-volume curve.Curr Opin Crit Care.2024;30(1):35-42. doi:10.1097/MCC.00000000000011277）。同様に、R/I比アプローチもデクリメントPEEPトライアル中のデリクルートメントの詳細な評価に使用されていますが、この場合は窒素希釈によって呼気終末肺容量を測定しなければならないため、必要な技術の要求レベルが高くなります（Grieco DL, Pintaudi G, Bongiovanni F, et al.Recruitment-to-inflation Ratio Assessed through Sequential End-expiratory Lung Volume Measurement in Acute Respiratory Distress Syndrome.Anesthesiology.2023;139(6):801-814. doi:10.1097/ALN.00000000000047168​) 

R/I比は、Hamilton Medical人工呼吸器の標準モニタリングパラメータを使用してベッドサイドでリクルータビリティの程度を評価する手段を提供します。もう1つの静的PVループを使用する方法は、HAMILTON-C3/C6およびHAMILTON-G5/S1人工呼吸器で使用可能なP/V Toolを使用して適用できます（HAMILTON-G5およびHAMILTON-C3/C6人工呼吸器ではオプション機能A、HAMILTON-S1では標準機能B）。この場合、リクルータビリティは、1回の診断手技で得られたプレッシャー/ボリューム曲線から直接評価できます。P/V Toolは、リクルートメント手技の実施に加えて、複数回の診断手技から得られたヒステリシスの詳細な評価に基づいて最適なPEEP設定を見つけるためにも使用できます。